The Foxy's World Report

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宇宙人になりたがる人たち -スターシードというブームの変遷を辿る-

『自分は地球人ではなく、特別な使命を帯びて地球に生まれた宇宙人なのだ』

こうした発信が今SNSを中心に拡散し、大きな反響を呼んでいる。それらの人々はスターシードと呼ばれ、その考え方に共鳴したり自分もそうだと名乗りをあげ、互いに交流したりするといった現象が起きている。

しかし、このような現象は今に始まったものではなく、何度も繰り返しブームを巻き起こしては忘れ去られるという一過性の現象にしか過ぎない。しかし、そこにはある種の普遍性を見いだすことができる。

この項では、宇宙人になる人々の共通性とその変遷について検証してみたい。

 

戦士症候群

1980年代にブームになった、「自分は目覚めた戦士」で「仲間の戦士を探しています」(戦士パターン)「自分は前世の記憶を取り戻した転生者」で「前世で繋がっていた仲間を探しています」(転生者パターン)2パターンおよびそのミックスに大きく分類される。

当時、オカルト雑誌『ムー』(学研)の文通コーナー「コンタクト・プラザ」や『トワイライトゾーン』(ワールドフォトプレス)、『マヤ』(学研)の文通コーナーに、以上で述べたパターンの投稿が多発し、やがて投稿コーナーのほとんどがこのような投稿で埋め尽くされてしまう現象が起こった。 

これらの設定は、戦士に目覚めて仲間を探す戦士パターンは、平井和正石ノ森章太郎の『幻魔大戦シリーズ』の影響を強く受けていると考えられた。

転生者パターンではアニメ『ムーの白鯨』や冬木るりかの『アリーズ』、佐藤史生の『ワン・ゼロ』など、転生した仲間たちと共に敵と戦うといった当時流行した作品に影響を受けた設定が多い。

 

インディゴ・チルドレン

1970年代にスピリチュアルの大家、ナンシー・アン・タピーが言及したことに起源を持つと言われている。日本では2005年頃にスピリチュアルブームに関連して、一部でブームを巻き起こした。

インディゴとはニューエイジの概念であり、特別で変わった特徴を持ち、時には 超自然的な能力を持つとされる子どもたちのことを指している。

地球の次元上昇(アセンション)のために、地球外の惑星から来た『魂』を持つと考えられている。インディゴ・チルドレンの特徴としては、共感性がたかく好奇心が旺盛で、魂の次元が違うため様々な軋轢が周囲と生まれやすく、孤独感にさいなまれる人が多いとされる。

第2世代は、クリスタル・チルドレンと呼ばれる。インディゴの特徴を受け継いだ上で、共感性をさらに発達させたテレパシーなどスピリチュアルな能力が更に強化され、超人的な才能を発揮するという。

第3世代は、レインボー・チルドレンと呼ばれる。五感が特に鋭敏で、魂にカルマを持たずに生まれ落ち歴史に名を刻む聖人を彷彿とさせるような、神にも等しいエネルギーを備えるという。

 

スターシード(スターピープル)

元ネタは、アメリカの超常現象研究家ブラッド・スタイガ― の1976年の著書『水瓶座の神』という著書で、SNSでは2020年頃からブームを起こした。

自分は地球人ではなく、別の惑星からやってきたと信じる人たち、彼らは「スターシード」と呼ばれ、地球をより良くするために使命を持っていると考えている。

「スターシード」は、自分が元々いた惑星は地球よりも高次元へ進んでおり、地球の次元を上昇させるために転生したと言う。彼らは瞑想や「ライト・ランゲージ」という魂の言葉で宇宙と交流できるとも主張する。

スターシードの特徴としては、人生の意味を探したり、居場所がないと感じたりすること、また心や体を病みやすく、多くの睡眠が必要だとも言われ、前世で受けた傷が体に残っているなどと言うこともある。

まとめ

一連のブームを振り返ってみると、1.自分たちは特別な存在 2.大きな役割を果たすために今ここにいる、という2点において共通している。

しかし、彼らの持つ信念は心理学的な錯覚に基づいている可能性がある。一般的な性格や経験を自分だけの特徴だと思い込んだり、宇宙的な視点から物事を見たり、現実と想像を混同したりすることで、特別だと信じ込んでしまうのだ。

これらの心理効果は、「バーナム効果*1」や「ソース・モニタリング・エラー*2」と呼ばれる。

それは、統合失調症によく見られる症状で、彼らは実際に神秘主義陰謀論を信じやすいということが分かっている。

 

自分が特別な存在であってほしいというナルシズムや、その裏返しの無力感、平凡ないまの自分は実は仮の姿なのだという思い込みや、傷つきやすさに特別な意味を感じ取ったりする、こうした感受性は思春期に特有のものだ。

そして、親の世代になるまでこうした情報に接して来なかった人たちには、神秘的な世界観から生まれる物語が新鮮に感じられ、自分の代わりになる子どもが特別な素質を持つという投影をはかろうとする。

 

また、「ニューエイジ思想*3」という1970年代に生まれた信仰は、科学に対する不信感や、従来の現実認識に対する疑問などから生まれたものであり、霊的活動が科学的なオーラをまとうことによって懐疑的な人をも巻き込み、スピリチュアルブームは大きなブーストを獲得したと考えられている。

 

スターシードブームの背景には、個人的な好奇心や憂鬱、社会不安に加えて、既存の科学に対する疑問など複合的な作用が働いていると考えられる。

 

 

*1:多くの人に当てはまることを言われているにもかかわらず「これは自分のことを指しているのだ」と感じてしまう心理的効果

*2:記憶の情報源は間違って判断されることも多く、そのことをソース・モニタリング・エラーと呼ぶ

*3:スピリチュアル詐欺や疑似科学という大きな社会問題にも発展した。